浦和地方裁判所 昭和62年(わ)229号 判決 1987年5月26日
本籍
大阪府箕面市瀬川五丁目一三番地
住居
東京都新宿区西新宿四丁目三二番一一号 セントヴィラ永谷一〇一〇
団体役員
仲吉良二
昭和一二年七月一五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官倉又彰出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
一 被告人を懲役八月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、「全国同和会議」及び「日本税制研究会」の名称を用いて事務所を設け、納税者の納税申告等に介入して報酬を得ていたものであるが、被告人は、澤田草兒から自己及び同人の母澤田まの譲渡所得に関する脱税工作の依頼を受けてこれを承諾し、澤田草兒と共謀のうえ、澤田草兒及び澤田ま所有の土地を譲渡したことにより納付すべき各所得税につき、あたかも右両名が佐藤正次の中村孝一に対する六億円の債務の連帯保証をなし、その保証債務の履行として各三億円を右中村に支払ったかのごとく装うなどして各課税所得金額を減少させる方法により、澤田草兒及び澤田まの所得税を免れようと企て、
第一 昭和五九年三月七日、埼玉県所沢市並木一丁目七番所在所沢税務署において、同税務署長に対し、被告人澤田草兒の昭和五八年中における実際総所得金額は三億四六九一万九七一七円で、これに対する所得税額が一億一五九〇万一二〇〇円であったにもかかわらず、その総所得税額が四六九一万九七一七円で、これに対する所得税額が八七〇万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額一億七一九万二八〇〇円(別紙(一)参照)を免れ、
第二 昭和五九年三月七日、前記所沢税務署において、同税務署長に対し、澤田まの昭和五八年中における実際総所得金額は五億一四六一万二三一八円で、これに対する所得税額が一億七九三六万七〇〇〇円であったにもかかわらず、その総所得金額が二億一四八五万六一二二円で、これに対する所得税額が六六九五万八五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を澤田まの代理人として提出し、もって、不正の行為により同女の正規の所得税額と右申告税額との差額一億一二四〇万八五〇〇円(別紙(二)参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(内一通は謄本)
一 収税官吏の被告人に対する各質問てん末書
一 澤田草兒(謄本)、室岡敏雄の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏の市川勝彦、平田光則、熊田隆春、岡部利夫、中村孝一、渡辺和義、浅田正夫、澤田まに対する各質問てん末書
一 松風暁和、小峰小治郎作成の各答申書
一 収税官吏作成の各調査書
一 押収してある所得税確定申告書一綴、一枚(昭和六二年押第七八号の1、2)
(補足説明)
前携各証拠によれば、被告人は、澤田草兒から自己及び同人の母澤田まの譲渡所得につき脱税工作の依頼を受け、これを請負ったこと、澤田草兒は、自己らの税務経理を担当していた岡本税理事務所事務員渡辺和義と相談し、架空の仲介手数料二九六〇万円を計上することとしたこと、右渡辺はこれに基づき澤田草兒、澤田まに関しそれぞれ一四八〇万円の架空手数料を計上した各所得税確定申告書写しを作成したこと、被告人は、人を介して右写しを入手し、これに自己が作出した架空の連帯保証債務を澤田らが支払ったように装った各所得税確定申告書を作成し、所轄税務署長に提出したこと、被告人は架空の仲介手数料の計上については全く関与していず、架空であることの認識はなかったことがそれぞれ認められる。右認定事実によれば、架空の仲介手数料に関しては、被告人には澤田草兒との共謀は全く認められないのであるから、逋脱犯は成立しないと解するほかない。
(確定裁判)
被告人は、昭和六〇年一二月二六日東京地方裁判所において、詐欺、相続税法違反罪により懲役六年に処せられ、右裁判は、同六一年一月一〇日確定したものであって、右事実は、検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は、刑法六〇条、所得税法二三八条一項に、判示第二の所為は、刑法六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項に各該当し、所定刑中各懲役刑を選択し、刑法四五条前段及び後段によれば、以上の各罪と前記確定裁判のあった罪とは併合罪の関係にあるので、同法五〇条により未だ裁判を経ない判示各罪について更に処断することとし、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 金山薫)
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>